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書評

治療のリスクと選択肢
リスクを回避した治療を選択する“Multidisciplinary Approach”

[著者]渡辺隆史


 低侵襲治療を活かした一口腔単位の治療を追究

 歯科医療の歴史は、修復の歴史ともいえる。その目的は、生体に調和した歯牙形態、口腔機能、審美性の回復であり、これらを達成する手段の一つとして、補綴処置が施される場合が多い。しかし、補綴のために健全な歯を削合するというリスクを常に伴っており、結果として、天然歯→歯冠修復→ブリッジ→部分床義歯→総義歯という流れを作ることになった。

 現在、わが国は超高齢社会を迎え、人生100年時代ともいわれている。健康長寿の実現には、健全な口腔環境の保持が重要であることは、改めて説明する必要はないだろう。よって、われわれ歯科医療従事者は、100年機能し続ける口腔環境を患者に提供していかなければならない。

 そして、内容に目を通していくと、項目が多様かつ詳細であることに、また驚かされる。この書はまるで、エンドの実用的な百科事典である。日常臨床のなかで感じた疑問を、辞書を引く感覚で調べることができる。若手にとっては、知識や手技の確認ができ、困ったときの一助になるだろうし、ベテランにとっても、知識のアップデートに役立つ情報がぎっしり詰まっている。

 そのためには、先述の負の連鎖を断ち切ることが重要である。天然歯から歯冠修復の過程で必要以上に歯を削合しない治療が求められている。つまり、予防処置を筆頭とするいわゆる“低侵襲治療”を確立し、生活歯を保存することが必要になる。そうしたなかで、インプラント治療の出現は、ブリッジへの移行過程における歯の削合を避けることができる新たな選択肢をもたらした。

 また、近年では接着技術の向上に代表されるように、各分野での研究開発が進み、低侵襲治療を可能にする器材が格段に増加している。これらの器材を、診査・診断・治療計画の立案により選択し、低侵襲治療を一口腔単位で確立させることが重要である。

 しかしながら、実際の臨床においては、的確な対応に苦慮することが多いのではないだろうか? 本書は、「低侵襲=歯を削らない」という狭義の解釈にとらわれず、「真の低侵襲治療とは?」という疑問に明確に答えてくれるバイブルといっても過言ではないだろう。

 そして注目すべきは、これまで切り離して考えられがちだった矯正治療と一般臨床をリンクさせ、低侵襲治療を最大限に確立するうえで必要な知識や技術を詳細に解説している点である。

 加えて、一本の歯の治療から総義歯治療までを“ディシジョンツリー”というチャートに示し、疾患に対する診査・診断・治療計画の立案・治療方法までをわかりやすく分類。システム化された解説により、リスク回避のターニングポイントを探ることができる。これにより、低侵襲治療を1分野への応用とするだけでなく、治療のスタートからゴールまで、咬合・ペリオ治療・メインテナンスを含めた総合的にアプローチする必要があると理解させてくれる。

 生涯にわたる口腔健康を維持するうえで、どのように低侵襲治療を活かし、一口腔単位の治療を進めることができるか。そのために何が必要で、何をしなければならないかがわかる、日々の臨床の悩みを解決するのに最適な書籍である。

(文・松崎浩成/茨城県・松崎歯科)
[デンタルダイヤモンド 2018年2月号掲載]

治療のリスクと選択肢 リスクを回避した治療を選択する“Multidisciplinary Approach”

治療のリスクと選択肢
リスクを回避した治療を選択する“Multidisciplinary Approach”

[著者]     渡辺隆史

A4判変形・224頁
定価(本体13,000円+税)


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