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書評

『解剖から学ぶ口腔ケア・口腔リハビリの手技と、その実力』

[監修・執筆]
北村清一郎(森ノ宮医療大学)
[編集・執筆]
黒岩恭子(神奈川県開業)
森 淳一(大分リハビリテーション病院)


基礎と臨床がタッグを組んだ
オーラルフレイル予防のための画期的な実用書

 人生100年時代を迎え、健康寿命延伸の鍵となるのがオーラルフレイルや口腔機能低下症への対応であることは疑いようもなく、口腔ケア・口腔リハビリはわれわれ歯科界が取り組むべき緊急課題である。

 この問題に臨床家の立場で15年以上前から取り組んでこられたのが黒岩恭子先生で、これまで基礎的な口腔顔面形態学や生理学の立場から黒岩先生とともに活動してこられたのが、本書の監修・執筆者の北村清一郎先生である。こうして基礎と臨床がタッグを組み、まさに実践に役立つフレイル予防のための実用書として完成したのが本書であり、「何を」「どうやって」「何のために」「どこまで」が実に理解しやすい構成になっている。

 口腔ケア・口腔リハビリの目的で口腔にアプローチするには、まず患者が覚醒していることが必要であり、前処置として呼吸を誘導していく。そして嚥下の遂行には、表情筋が働いて口唇が閉鎖し、下顎が固定され舌を口蓋に圧接する必要がある。また、体幹が頭部を支えて頭位を安定させていることが前提で、そこには多職種との密な連携が必須となる。

 本書ではその理論と実際の手技について、各分野のリハビリ専門家が分担して多くの写真と図をとおして示している。バランスボールやくるリーナブラシ(オーラルケア)、emオーラルリハ(ラックヘルスケア)などの有効な使い方や使用上の注意点まで、誰もが安全にすぐに実践できるようにわかりやすく解説されている。

 最終章VII章の“黒岩恭子の「食べられる口の作り方」口腔リハビリの3つの柱”で示された実例は圧巻である。3つの柱は、①バランスボールを用いた筋のリラクセーション、 ② 舌を中心とする口腔関連構造のマッサージ・ストレッチ、③咽頭ケア、これらで構成される。最終段階ともいえる「咽頭ケア」を確実に行うことにより、自己喀出が可能になった患者の咽頭からは、大量の汚物が排出され、そこには鼻の汚れ、鼻毛、血餅、痰、顆粒状の薬、錠剤が混入していた。これに対して黒岩先生は、「ご本人はさぞかし苦しかったであろう」「私が考える口腔ケアは、器質的な口腔ケアだけでなく、口腔リハビリを行いながら咽頭ケアまで含めた“飲食を可能にできる口腔ケア”です」と述べて、この項を締めくくっている。

 本書を拝読して、解剖学の知識を口腔の機能訓練や摂食・嚥下リハビリの現場まで直結させ、さらに多職種が連携するシステムを構築したことが、口腔ケア・口腔リハビリの手技に卓越した実力を生み出したのだと痛感した。多くの医療関係者に本書をお薦めする。

(文・小出 馨/日本歯科大学新潟生命歯学部 歯科補綴学第1講座教授)
[デンタルダイヤモンド 2020年3月号掲載]

解剖から学ぶ口腔ケア・口腔リハビリの手技と、その実力

解剖から学ぶ口腔ケア・口腔リハビリの手技と、その実力

[監修・執筆]
北村清一郎(森ノ宮医療大学)
[編集・執筆]
黒岩恭子(神奈川県開業)
森 淳一(大分リハビリテーション病院)

A4判・232頁・オールカラー
小社より好評発売中!
定価(本体12,000円+税)


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