1. ホーム
  2. 書評
  3. 食べる喜びを支える歯科医療のためのデンチャースペース義歯

書評

食べる喜びを支える歯科医療のためのデンチャースペース義歯

[監修]加藤武彦
[編集委員]三木逸郎・糟谷政治


デンチャースペース義歯の真髄を集約!

 義歯を作っても、「食べられることを確認するまでは終わりにしない」ということを、40年以上前から提唱していた加藤先生には感動させられました。40年以上前、「リジットか緩圧か」で論争していた時期に、「クラスプ義歯かコーヌスクローネ義歯か」の座談会で、加藤先生と同席させていただきました。
 恥ずかしながら、それまで私は、「きれいな義歯を製作し、口腔内に痛くなく装着されればおしまい」としておりました。「嚙めるのは当然」と、思い上がりをしていたのです。その座談会での加藤先生は、「食べるところまで診る」という視点を話されて、私は脳天をたたかれた記憶がいまでもはっきり残っております。
 「食べるところまで診る」という言葉は瞬く間に歯科界に、とりわけ全国の歯科開業医に響き、広がりました。そして、加藤先生をお呼びして話を聞きたいという声があちらこちらから聞かれました。また、聞くだけでは飽き足らず、実践を見たいという多くの声にも加藤先生は優しく応え、患者さんにも参加してもらう実践セミナーがいまでも続いています。
 いまでこそ「在宅往診」という言葉は耳新しくありませんが、40年以上前からの実践は、患者さんをどれほど大切に思って口腔医療の実践をしてきたかの思いの強さの表れで、強く圧倒されます。ある一人の天才歯科医がうまくできる歯科臨床を伝えるというよりは、全国の歯科医みんなで患者さんのために「訪問歯科」をやろうという考え方によって「加藤塾」(全国訪問歯科研究会)が立ち上げられたのです。
 それが広まり、全国に門下生が生まれ、それらの一部の先生方が本書にも登場しております。本書には、加藤先生の半世紀以上にわたるご尽力が見事に集約し、表現されています。
 内容としましては、著者が手も足も出なかった症例から気づきが起こり、「歯槽頂間線法則の呪縛からの解放」を成し遂げ、デンチャースペース義歯にたどり着いた経緯が、症例を示しながらわかりやすく書かれています。
 医療ジャーナリストの塩田芳亮氏が、母親を加藤先生に診てもらい、1日で食べられるようになり、亡くなる2日前まで自食していた、という経験を『食べる力』(文春新書)という著書に書いています。その書籍は「口腔医療革命」という副題で、まさに「口から食べる」ことの大切さをみんなで考えようという内容です。加藤先生は「よく嚙んで食べることと健康長寿」、「在宅往診の今後のあり方」、「認知症」に関しても『食べる力』そして『食べる喜びを支える歯科医療のためのデンチャースペース義歯』をとおして多くの提言をされています。
 加藤マジックのデンチャースペース義歯を学びたい方、高齢化を迎えたこれからの口腔医療を考えていきたい方にぜひ一読をお勧めします。

(文・黒田昌彦「東京都・黒田歯科医院」)
[デンタルダイヤモンド 2018年9月号掲載]

食べる喜びを支える歯科医療のためのデンチャースペース義歯

食べる喜びを支える歯科医療のためのデンチャースペース義歯

[監修]加藤武彦
[編集委員]三木逸郎・糟谷政治

A4判/256頁
小社より好評発売中!
定価(本体10,800円+税)


Information