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書評

はじめよう在宅歯科医療

[監修]細野 純 冨田かをり


 本書『はじめよう在宅歯科医療』を手にしたとき、人間的なぬくもりを強く感じました。これはいままでの類書では感じたことのない経験でした。解説やイラスト等が丁寧に作られていることはもとより、患者さんに接する著者の姿勢や歯科医師としての生き方が随所に表れているからだと思います。加えて地域のなかで信頼関係を礎に、良好な多職種連携を構築している在宅医療の姿がはっきりとイメージできるからだと思います。

 さて、ここで中身についてご紹介したいと思います。本書は2部構成になっています。第1 部では「在宅歯科医療の原点」ということで、在宅医療現場からのメッセージと歯科訪問診療で大切な基本事項がわかりやすく記載されています。このなかで感銘を受けたのは、髙藤奈津子歯科衛生士が「介護者の負担を少なくすることも、私たちの仕事の一部だと思っています」という言葉でした。常に相手の立場や状況に立って取り組むことが、長く在宅医療を受け入れてもらう秘訣だと私も思います。また、松本めぐみ歯科医師が「できるときに、できることを、できるだけする。そのための努力を怠らないことがいちばん大切だと気がつきました」と述べています。まったく同感です。新谷浩和歯科医師は、「できることをアセスメントして、患者さんができることを引き出していくことが大切」と述べています。現場から学んでいくという謙虚な姿勢が感じられ、このことが安心安全な医療に繫がり、患者とその家族の納得度と満足度を高めることを学びました。

 第2部では在宅医療を支える地域の声を取り上げています。みなさん、率直に現場で体験したことを紹介してくれています。本文中、われわれの使命感に火をつける箇所がたびたび出てきます。在宅医療は診療室での診療以上にさまざまな配慮が要求されますが、達成したときの充実感は何にも代えられません。そして、全国的に著名な在宅医である鈴木 央先生の歯科への熱いメッセージには、心が熱くなりました。最後まで生きるために食べることが重要であると説き、そのために医科と歯科の連携が大きなテーマだと述べています。また、訪問診療には治療だけでなく心のケアが大切であるという一節は在宅医療の本質をついていると思いました。細野先生、冨田先生をはじめ、関係者の方々が皆、礼儀正しく、優しい方々であるという印象をもちました。技術指向性の強い歯科医師や歯科衛生士が忘れがちな大切な事項を本書のなかでよくフォローして、解説してくださっています。

 これから在宅歯科医療を推進しようと思っている歯科医師や歯科衛生士、また多職種連携で壁にぶつかっている歯科医療者にとって、すばらしい啓発書になると確信します。そして、この本が歯科医師人生を変えるきっかけになるかもしれません。在宅医療を目指す、多くの仲間に本書をぜひ、紹介したいと思います。

文・米山武義
静岡県・米山歯科クリニック

はじめよう在宅歯科医療

はじめよう在宅歯科医療
 

[監修]細野 純 冨田かをり

A4判変型・84頁・オールカラー
定価(本体 4,800円+税)


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