書評
THE SOFT LINING 軟質リラインの本質
[編著]濱田泰三 村田比呂司
義歯臨床の「痛い」「噛めない」「外れやすい」を解決する一冊
4月からの診療報酬の改定で、軟質リラインが保険に導入された。このような時期に、なんとよいタイミングで出版された本なのだろう。「実は、困ったときには私も使っていたんだよ」と恥ずかしそうに話すようなところがあった軟質リライン材だが、このたび、市民権を得て、堂々と使えるようになったわけである。筆頭著者であり編者でもある濱田泰三先生が、「いままで“逃げ”で使われていたものが、これからは“攻め”で使われるようになるだろう」と話していたが、まさに同感である。本書は、そのために必要な知識や実践方法が具体的に記述されており、軟質リライン材の集大成といえる本に仕上がっている。
軟質リラインが保険導入されたことは、たいへん喜ばしいことである。これから、さらに使いやすく耐久性のある器材の研究が進み、歯科医師も歯科技工士もその手技の熟達にもっと時間を割くようになるだろう。しかし、心配なこともある。それは、痛い・外れるからといって、軟質リライン材を使うことですべてが解決するわけではないということである。辺縁形態や咬合が適切でなければ、どんなに優れた軟質リライン材を使用しても義歯は痛くなり、外れてしまう。また、安易に使用された結果、軟質リライン材の評価が落ち、“ダメな材料”というレッテルが貼られてしまうこともある。それを防ぐためにはどうしたらよいだろうか。簡単である。本書を読んでから軟質リラインに取りかかればよい。
本書の前半では、義歯臨床を行ううえで必要な解剖的知識から軟質リライン材の特徴や効果、そしてその前段階として必要なティッシュコンディショナーの正しい知識と扱い方が述べられている。後半では、軟質リラインを行うためのダイナミック印象や実際の症例から技工操作までが記されており、まさに「これ一冊」という言葉がピッタリの軟質リラインの集大成である。
私の父は歯科医師であり、総義歯装着者であった。私が大学を卒業したころは、軟質リライン材には否定的であった。座布団の上に板を置いて釘は打てないぞ、というたとえからである。しかし、晩年は床全体が軟質リライン材でできた義歯を装着していた。硬いレジンの床では、硬い物を噛みきる瞬間が痛く、それを解決するのが軟質リライン材だというのである。私が大学を卒業した44年前に比べると高齢者が増え、いわゆる難症例という状態の患者が普通に歯科医院に来院するようになっている。本書を読み、軟質リラインの知識と実際の手技に習熟することが、これからの義歯臨床の成功率を高めることになるのは間違いない。
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THE SOFT LINING
軟質リラインの本質[編著]濱田泰三 村田比呂司
B5判/192頁/オールカラー
定価(本体9,000円+税)