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書評

唾液のチカラQA

[執筆]小川郁子 ・ 北川雅恵


歯科医師として唾液を再認識させる最適の書

 本書は、唾液について、とにかくわかりやすく、読みやすい本である。唾液は血液から作られ、多くのデータが集約されており、採取も容易な検体である。しかし、歯科界では長い間検査対象にされず、深い谷底に置き去りにされてきた。いま一度、歯科医師として唾液を再認識するためには、最適の書である。

 本書では、唾液がどのように作られ、その機能、唾液が出ないことによる弊害、そしてその状態が正常か否かを調べる検査について、50問のQ&A形式で書かれていて、辞書のように知りたいところだけを読むこともできる。患者がもつ疑問も網羅されており、その疑問に対して根拠をもって答えることができる。

 歯科医療においては、う蝕と歯周病のみが疾患で、その原因は細菌であるといわれてきた。そして唾液の作用がこの2大疾患を左右することも知られている。しかし、この2大疾患に対する臨床検査、とくに唾液検査には保険点数が与えられていない。本書では、唾液を用いたう蝕活動性の検査、唾液と歯周病の検査の重要性をわかりやすく解説している。歯科医師が、唾液検査の重要性を知り、エビデンスを作り上げれば、将来的な保険導入も夢ではないと思われる。

 また、唾液の分泌障害によるドライマウスは、う蝕や歯周病を誘発するばかりでなく、カンジダなどの繁殖を許す。さらには、口腔粘膜疾患、嚥下障害、口臭、上部消化器障害が起こることも知られている。本書では、唾液についての知識がなく、そして唾液検査から診断がなされなければ、上記の疾患を治すことはできないと述べている。加えて、唾液を用いたストレス関連検査、遺伝子検査によるがんや生活習慣のリスク検査などにも触れ、歯科医療と医科医療の連携の重要性も明確に示している。

 現在、口腔健康と全身健康の関係が叫ばれている。世界歯科連盟(FDI)は、2015年に「口腔健康アトラス』第2版を出版し、口腔の役割を、「潤滑な口、腔機能の維持、ひいては、呼吸、話す、表現する、attract、味わう、飲む、咬む、食べる、なめる、吸う、吐く、キスをする、指笛を吹く、音楽を奏でる」などと記載している。本書では、これらすべてが、唾液の質と量にかかわっていることが解説されている。

 口腔健康は「唾液」がキーワードで、唾液の管理が、全身健康に繋がることを改めて認識させてくれる。

文・井上 孝
東京歯科大学 臨床検査病理学講座教授
[デンタルダイヤモンド 2017年7月号掲載]

唾液のチカラQA

唾液のチカラQA
 

[執筆]小川郁子 ・ 北川雅恵

B5判変型・108頁・オールカラー
定価(本体3,400円+税)


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