書評
行田克則の臨床アーカイブ
補綴メインの長期100症例
[著]行田克則
「すごい本が出た」というのが、私の第一印象です。
第一に、100症例のすべてに10年以上の長期術後経過が記載されていることです。加えて、100症例の平均術後経過が18.73年というのは驚異的な数値です。
第二に、補綴のみならず、臨床すべてに精通した臨床例の記録であることです。本書は7つの章で構成され、1.ブラッシング/ペリオ/メインテナンス、2.インプラント、3.義歯、4.歯牙移植と再植、5.矯正、6.歯根破折と歯牙破折、7.補綴処置となっています。著者はクラウン・ブリッジを専攻していますし、歯肉縁下の見事な支台歯形成はよく知られています。ところが、それだけではないことが本書でよくわかります。現実の臨床は、特定の専門分野だけではとても対処に苦慮させられることが多いのはよく知られています。それを見事に処置されていますし、その記録が詳細に保存されているのも驚嘆します。
患者さんは誰も同じではありません。臨床はすべてが応用です。その応用の幅の広さを、事もなげに披露してくれている記録は、私たち読者に多くの示唆を与えてくれます。
第三に、見開き2頁に1症例がまとめられていて、とても見やすく編集されていることです。術後経過の長い症例記録は膨大な量になってしまい、とても2頁に収めきれないことが多いはずだと想像しますが、読者への配慮のために厳選を重ねた記録に絞っていることにも感謝したいところです。
どうしても収めきれない症例は3頁になっていますが、余りの1頁を「COLUMN」として著者の臨床に関する考え方を簡潔にまとめていて、なかなか読み応えのあるものに仕上がっています。たとえば、「本当の治療は術後から始まる」「補綴治療の長期症例って何年から?」「抜歯基準は誰が決める?」など、とても味わい深い文章で、著者の長年の研究と臨床経験に裏付けられている点に驚嘆と共感を覚えて、とてもうれしく読めました。
第四に、抜歯本数の少なさで、これには驚きました。著者が補綴した歯の抜歯本数が少ないだけでなく、補綴歯以外の抜歯本数も極端に少ないことに感服しました。「COLUMN」のなかで著者が述べているように、ブラッシングやメインテナンスの重要性を力説されていればこそだと納得できます。補綴を専攻する歯科医師(私がそうですが)は、自分の技術に頼る場面が多く、プラークコントロールやメインテナンスに力点を置くことが少ない傾向にあると感じます。しかし、著者はその点も臨床のキーポイントとして、シッカリ押さえるように示唆しています。多くの方々にぜひ本書の一読をお勧めします。
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行田克則の臨床アーカイブ
補綴メインの長期100症例[著]行田克則
A4判・272頁・オールカラー
定価(本体 20,000円+税)