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書評

『歯科診療所のためのエビデンスのあるハイパー感染管理
コストから投資への転換』

[著]
佐藤繭美(歯科衛生士/第一種滅菌技師)
石原宏一(歯科医師/インフェクションコントロールドクター[ICD])


感染管理はコストにあらず

 2010年以降、感染管理に関する専門書が続々と上梓されている。そうしたなか、小さな歯科医院でもできるであろう現実的かつ実践的な専門書が、デンタルダイヤモンド社から発刊された。著者の佐藤繭美氏と石原宏一先生は、地方の歯科医院で感染管理を追求する、知る人ぞ知るその道のエキスパートである。
 感染管理について、私の体験談を共有したい。私がイエテボリ大学で学んでいたころ、ペリオの大学院3年生のころであったと思うが、同じビルのブローネマルククリニックで半年間、手術の研修を受けるプログラムがあった。
 私がお邪魔するときはUlf Lekholm教授の診療枠で、手術のアシスタントにつきながら、実にいろいろな指導を受ける機会に恵まれた。
 はじめてお邪魔したときにまず訊かれたのが「外科の手術室での手洗いは知っているか?」という質問で、「正式には学んでいない」と答えると手術室の手洗い場に連れていかれ、マンツーマンで手術前の手洗いを叩き込まれた。
 日本の口腔外科ではたわしでゴシゴシまんべんなく洗うことを学んでいたが、教授の手洗いはまったく違っていたのに驚いた記憶がある。
 「エビデンスを元にするとこうなるのだよ」と言われたことを鮮明に覚えている。まだ日本に「エビデンスベース」という言葉が輸入される少し前のことである。
 あれから20年以上経っているので、エビデンスも変化し、それを基にしたプロトコールにも大きな変化があったと思うが、本書を読むことでその変化と進歩を目の当たりにし、とても楽しかった。
 医療機関において、滅菌や消毒に代表される感染管理は最重要事項である。感染管理は患者のみならず、われわれ歯科医療従事者のためでもある。とくにコロナ禍の現在、患者の関心は高い。
 感染管理を考えるうえで、「コスト」の問題は避けてとおれない。感染管理を徹底すると、それこそ「ディスポの診療台」に行きつくだろう。小さな歯科医院では本来の業務や生産性に支障を来すのは容易に想像がつく。ところが本書はそのコストを「投資」と捉え、患者からの信頼獲得やそれに付随したメリットに関しても触れている点が、他の書とはあきらかに異なる新たな視点を提供している。
 開業歯科医、とくに小さな規模の歯科医院の先生方に、ぜひご一読いただければと思う。

(文・大野純一/群馬県・大野歯科医院)
[デンタルダイヤモンド 2022年6月号掲載]

歯科診療所のためのエビデンスのあるハイパー感染管理 コストから投資への転換

『歯科診療所のためのエビデンスのあるハイパー感染管理 コストから投資への転換』

[著]
佐藤繭美(歯科衛生士/第一種滅菌技師)
石原宏一(歯科医師/インフェクションコントロールドクター[ICD])

AB判/88頁/オールカラー
小社より好評発売中!
定価(本体5,400円+税)


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