174第7章 外科手術図❶ 第1大臼歯と上顎洞底との距離には左右差がある(矢印は口蓋溝)図❷ 眼窩下孔(黄矢印)とオトガイ孔(赤矢印) 口腔内における小手術(抜歯、骨隆起切除、囊胞摘出、膿瘍切開など)に際して、とくに留意すべき重要な骨形態、神経、血管の解剖学的特徴について解説する。顎口腔領域の局所解剖をよく理解して、細心の注意を払って丁寧に外科的手技を実践することは、術後の合併症を回避するうえで極めて大切である。1.骨形態1)上顎洞 成人の上顎洞と歯根尖との距離は、個体による差異が大きい。一般的に上顎洞底と密接に関係しているのは第1大臼歯であり、次いで第2大臼歯、第2小臼歯である。上顎洞底と歯根尖との距離はCBCTで容易に計測することができる(図1)。2)骨孔①眼窩下孔 眼窩下孔は眼窩下管の開口部であり、眼窩下神経血管束が通る。犬歯窩上方で眼窩下縁中央の約1㎝下方に存在する。上顎犬歯部後方において歯肉頰移行部より粘膜骨膜弁を剝離し、鉤などで牽引する場合にはとくに注意が必要である(図2)。②切歯孔 上顎骨前歯部の正中口蓋側にある切歯孔は、切歯管の開口部であり、上顎神経の枝で鼻口蓋神経血管束が通る。切歯孔はCBCTで容易に確認することができるため、上顎埋伏過剰歯の抜歯時には事前に位置を把握しておく必要がある(図3)。③大口蓋孔 左右後方の口蓋骨にある大口蓋孔は、大口蓋管の開口部であり、大口蓋神経血管束が通る。大口蓋孔は綿棒などを使い、水平部と垂直部の交点を前方から後方に向かってなぞると凹みとして触知する(触知同定法:図4)1)。2.神経・血管1)大口蓋動静脈 大口蓋神経血管束は粘膜下組織のある口蓋溝中を前走し、細く分岐した神経や動静脈が口蓋粘膜中に幅広く進入する(図1)。ヒト解剖体から得たデータによれば、大口蓋動脈本幹から上顎歯列までの距離は、第2大臼歯部(13.9±1㎜)から犬歯部(9.9日本歯科大学生命歯学部 口腔外科学講座 里見貴史 上顎01口腔内小手術時に 見落としてはいけない局所解剖
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