続・日常臨床のレベルアップ&ヒント67選
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後退位をとらせる有効な方法【参考文献】図❺ 全部床義歯症例の咬合採得の基準位は後退位=GoAのアペックス(=中心位)であると理解しておく図❻ a、b 全部床義歯症例の咬合採得後は、前歯部のみ排列して臼歯部はろう堤の状態で慎重に確認し、再採得が必要かどうかを検討することが大切である01 全部床義歯の咬合採得を成功させる重要ポイントab 全部床義歯の咬合採得するべき下顎位については、以前よりさまざまな意見がある。つまり、中心位や下顎最後退位、顆頭安定位、タッピング位置、あるいは患者が習慣的に咀嚼を営んでいる位置など、多くの歯科医師がさまざまな意見をもっていると考えられる。 ただし、古くからの成書を俯瞰すると、その多くで最後退位での採得を勧めている。Swensonは「後退位こそが唯一確実に採得できる顎位であり、~中略~後退位からスタートするのがより安全である」1)と述べているが、筆者もそれを支持しており、まずは患者が自らとり得る最後退位でいったん記録することを基本とする(図5)。 下顎を後退させる方法にはさまざまな方法が提案されているが、筆者がとくに有効だと感じている方法を2つ紹介したい。 1つは、“前後運動の訓練を行わせる方法”である。咬合採得が難しい患者は、閉口を指示すると前方や側方で閉口してしまい、うまく採得できないことが多いが、そのうちのほとんどは下顎の後退位を理解できていないことに起因していると考えられる。そのため、まずは患者に前後運動を練習させることによって前方位を理解させ、しっかりと前方位をとらせた後に「戻して」という指示を行うと、すみやかに後退位近くまで後退させることができる。 つまり、前方位を教えることにより、後退位が理解できるようになるという方法である。もし、当日にその理解が難しい場合は、次のアポイントメントまで練習を行ってもらうことにより、患者の理解が1)Swenson MG : Complete Dentures 4 th ed. St.Louis: Mosby; 1959.得られることも多い。本法は非常に有用であるため、ぜひ覚えておいてほしい。 もう1つの方法は、“舌後方挙上法”である。本法は、軽く開口させた状態で、舌先を咬合床の後縁まで挙上させた(床後縁を舐めさせるように)状態で閉口させることで、前方位を取りにくくする方法であり、非常に有効である。一度、自身でやってみるとわかるが、本法は下顎を強力に後退させることができるため、ぜひ活用してほしい。 上記のような方法を用いて、まずは後退位で記録して咬合採得のアポイントメントを終えるが、以下のような理由から必ず前歯部のみの排列試適で確認や再採得を行うことが重要である。まず、上下顎の咬合床は非常に変位しやすいこと、ワックスの収縮が大きいことなどから、咬合床を使った採得はどうしても精度が悪くなると考えられること、採得した後退位で果たして再現性が得られるかどうかを検討する必要があることがおもな理由である。 必ず前歯部のみ排列し、臼歯部はろう堤の状態で慎重に確認し、再採得が必要かどうかを検討することが大切である(図6)。 全部床義歯臨床を失敗させない秘訣は、咬合採得を誤らないことが最重要だと考えられる。そのために術者に求められているのは複数回の確認と再採得である。しかしながら、それよりも大切なのは、やり直す勇気と妥協しない姿勢だといえる。151 1回目の水平的顎間関係は後退位を採得する 前歯部の試適で確認&必要なら再採得 おわりに

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