症例選択 Q.1 ドナー歯の抜歯を、より安全に効率的に行う工夫はありますか。子を用いて摘出している。上顎埋伏智歯はう蝕や治療経験がない生活歯である、いわゆるバージンティースであることが多いため、移植のドナー歯として有用であることが多い。そのため、上顎埋伏智歯抜歯がスムーズにこなせることは移植に関してもかなり有利になる。逆にいえば、上顎埋伏智歯抜歯に苦手意識があると移植治療に制限がかかってしまうこともあり、ぜひマスターしておきたい手技である。 以下に、上顎埋伏智歯抜歯の筆者なりの簡単なコツを記しておく。1. 上顎7遠心歯槽頂切開と縦切開を加え、明視下、直視・直達を心がける 上顎埋伏智歯抜歯は口唇や筋突起の存在で盲目的な手術になりやすい。開始時に口腔内から歯冠が見えないような症例の場合は上顎7歯槽頂切開と縦切開を加え、粘膜骨膜弁を翻転し、視野を確保する。粘膜骨膜弁を起こすことや、骨を削ることが侵襲が大きいというのは誤解である。必要最小限のフラップを起こし、必要最小限の骨削除を行い、短時間で素早く手術を終わらせるというのが本当に侵襲の少ない手術ではないだろうか。2. 骨削除はマイセル・マレットを用いる(図1、2) ストレートハンドピースやコントラアングルを用いた骨削除は、上顎埋伏智歯抜歯の場合は口唇や頰粘膜を巻き込みやすく危険である。また、必要以上に骨を削除しすぎてしまった場合、へーベルが回転してしまいうまく力がかけづらくなる。マイセル・マレットを利用し、低侵襲で必要最低限の骨をコントロールしながら除去していくほうが安全である。3. 智歯が上顎7の遠心歯頸部のアンダーカットに入り込んでいても歯冠分割は行わない 上顎埋伏智歯は、分割して歯が小さくなるとへーベルをかけるポイントがわかりにくくなるので分割は極力行わないほうが無難である。23だけではなく、患者との信頼関係構築から始まり、全身状態の把握や感染対策、そして適切なドナー歯の選定まで、多岐にわたる。 具体的なドナー歯の選定や診断方法については他項に譲るが、これらの準備を丁寧に行うことで、より安全で効果的な歯の移植・再植が可能となる。 安全で正確なドナー歯の抜歯は、歯の移植の成功を左右する。具体的には、ドナー歯の歯根膜の損傷を極力抑えた抜歯手技が求められる。 歯根膜細胞は再生能力が高く、ドナー歯の歯根膜の保全が移植後の歯の定着と機能回復に不可欠な役割を果たす。歯根膜は歯と歯槽骨を結びつける組織であり、この組織が損傷を受けるとアンキローシスといわれる置換性骨吸収の原因となる。そのため抜歯の際には、歯根膜を挫滅させないよう細心の注意を払う必要がある。 具体的には、歯根を器具で直接触れることを極力避けるため、鉗子を用いて歯冠部をしっかりと把持して抜歯を行う。この際、ダイヤモンド付き鉗子やYDM製「抜歯鉗子Claw」などの把持力の高い器具を用いると、歯への不要な力の伝達を防げる。ドナー歯を脱臼させる前にあらかじめメスで歯根膜内へ切開を加え、歯周靭帯を切離しておくことで、可能なかぎり歯根膜を歯根へ付着させたまま摘出できる。 ドナー歯が埋伏している場合、粘膜骨膜弁を翻転し、必要に応じて骨を削除して歯冠を明示する必要があるが、ストレートハンドピースや5倍速コントラアングルを用いて骨削除を行う場合は、歯根を損傷しないように注意が必要である。ドナー歯の抜歯には対象歯や隣在歯の歯周組織を損傷しやすいへーベルは用いないことが基本だが、上顎埋伏智歯などをドナー歯として採用する場合はへーベルなしでの抜歯は困難な場合がある。 筆者はへーベルで歯を脱臼させたのち、鉗子にて把持できるところまで歯を移動させてから、鉗ドナー歯の抜歯手技
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