歯の移植・再植Q&A 天然歯の有効利用からトラブル回避まで
8/12

症例選択第2章 移植22第2章 移植 歯の移植は、前提としてドナー歯の抜歯が完了しないことには始まらない。つまり、歯の移植を行うにはまず安全で正確な抜歯術を会得していることが前提となる。 すべての歯科治療に通じることではあるが、とくに抜歯をはじめとする観血的処置は患者にとって不安や緊張を伴いやすい。そのため、治療を成功に導くにはまず患者との信頼関係を構築し、そのうえで、具体的な手術の説明を行い、患者の不安を軽減させる必要がある。とくに歯の移植・再植治療は術後約1ヵ月の固定期間が必要となるが、この固定期間は患者を信頼し、患歯の安静と清潔度の保持を患者に委ねることになる。術前・術後の患者との信頼関係、そして、それに起因した患者の協力的な姿勢が予後を左右することはいうまでもない。 また、観血的処置を行う前には患者の全身状態を十分に把握することも重要である。現在の健康状態、既往歴、使用中の薬剤などを詳細に確認し、必要に応じて医科との連携を考慮する。 周術期感染対策も、手術前の重要な準備事項の一つである。手術部位感染のリスクを最小限に抑えるため、適切な感染予防策を講じる必要がある。具体的には、術前の口腔内消毒、術者の手指消毒、適切な滅菌器具の使用などが挙げられる。 術前術後の抗菌薬の使用も重要な感染予防策の一つである。JAID/JSC感染症治療ガイドライン20191)においては、切開の1時間前における抗菌薬の使用が推奨されている。術後数時間適切な抗菌薬濃度が維持されていれば術後の投与は必要ないとする報告もあるが、このガイドラインでは術後24時間以内の再投与が推奨されている。 抗菌薬の種類や投与期間については、術者が患者の状態や手術内容に応じて適切に判断する必要があるが、基礎疾患や薬剤アレルギーのない通常の症例であれば、わが国ではアモキシシリンが一番望ましいとされている。 近年、薬剤耐性(AMR:antimicrobial resistance)が問題となっている。AMRとは、薬剤に耐性ができ、薬剤が効かなくなることを指す。とくに抗菌薬が細菌に効かなくなることについては、2050年には世界でAMRによって死亡する人の数が1,000万人に達し、がんで年間に死亡する患者数をはるかに上回るとの試算がなされている。これを防ぐためにわれわれ歯科医師ができることは、漫然と抗菌薬を3日間処方するのではなく、ガイドラインに示された薬剤を、適切なタイミングで、適切な量を処方し、同時に患者へ薬剤の適正使用を指導することである。 このように、抜歯前の準備は単に技術的な側面山崎新太郎 Shintaro YAMAZAKI千葉県・まきの歯科クリニック南行徳院抜歯前の準備Q.1ドナー歯の抜歯を、 より安全に効率的に行う工夫はありますか。

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る