42要です。たとえば、診療動線やバックヤードの設計ひとつをとっても、スタッフの働きやすさや連携のしやすさに直結し、それが結果としてスタッフ満足度(ES)の向上に繫がります。また、受付・待合スペースやトイレなどは、デザイン次第で患者さんの第一印象や安心感も大きく変わり、患者体験(PX)の質にも影響を与えます。つまり、医院設計は単なる「形」ではなく、「体験」を生み出す設計である必要があります。このような視点に立つと、設計は決して“後まわし”にすべきものではありません。むしろ、開業準備において最も早い段階から、理念や経営方針を軸にしながら空間設計に取り組むべきものなのです(図1)。3. 空間デザインがブランディングと経営成果いまの時代、選ばれる歯科医院には明確な理由があります。機能性・快適性・清潔感・信頼感といった体験価値は、視覚や空間から受ける印象と密接に関係しています。つまり、空間デザインの質はブランディングに直結し、それが患者さんの集患やスタッフの採用力や定着にまで影響を与えるのです。実際に、空間デザインを通じて歯科医院の“世界観”を丁寧に表現し、理念と空間が一貫している医院ほど、患者さんからの共感や信頼を得やすく、競争が激しいエリアでも安定した医院経営を続けている傾向があります。「空間デザイン=見た目を整える作業」という考えをアップデートし、「空間デザイン=経営戦略の実践装置」として捉える視点が、今後ますます重要になっていくのです。第2章 医院設計・DX近年、歯科医院を取り巻く環境は、目まぐるしく変化しています。とりわけ2020年以降のコロナ禍は、感染予防策の重要性を社会全体に再認識させ、患者さんの価値観や行動様式にも大きな影響を与えました。さらに、物価の高騰や人材不足、人口構造の変化、医療DXの加速 などにより、経営環境はますます複雑化しており、多様な視点から歯科医院経営を考える必要性が高まっています。こうした社会的・経済的変化のなかで、あらゆる業界が“使いやすさ”や“心地よさ”といった体験価値を重視するようになり、ビジネスの現場ではUX(User Experience)デザインが重要視される時代となりました。同様に、医療の現場においても「治療内容」だけでなく、「患者体験」いわゆるPX(Patient Experience)が注目されるようになり、歯科医院という空間そのものが提供価値の一部として捉えられつつあります。従来のように「とにかくおしゃれにすればよい」「最新の設備を導入すればよい」といった表層的な発想だけでは、歯科医院が抱える本質的な課題を解決し、持続可能な医院経営を実現することは困難になってきています。2.単なる“空間”から、“戦略的空間”へ歯科医院設計は、単なる“箱づくり”ではありません。空間は、歯科医院の理念やビジョンを形にする「メディア」であり、経営課題を解決する「戦略のツール」として捉えることが重1.歯科医院を取り巻く環境の変化雨谷祐之 株式会社スタイル・エイチ・デザインワークスに直結する時代医院設計が経営戦略として重要な時代01最新の医院設計のトレンド
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