知っておきたい歯科における医療安全対策 大学病院での医科・歯科双方の視点から
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2025月7月岡山大学病院 小児科/岡山大学病院 医療安全管理責任者・医療安全管理部長塚原宏一岡山大学病院 医療安全管理部白井 肇の「安全文化」の醸成の遅れを基盤とした認識不足から、医師-歯科医師間のコミュニケーションエラーが生じ、相互の信頼関係を喪失し、口腔外科が診療停止に至るような事例が発生している。 岡山大学病院においては、幸いなことに医療安全管理部の発足当初から歯科医師が医療安全管理部の一員として病院内の医療安全管理活動に参画していた。そのため、歯科内において発生するインシデントに対して、歯科医療関係者と歯科以外の医療関係者の捉え方が大きく異なる点に疑問をもち、歯科以外の医療関係者が、歯科のインシデント発生後にどのような対応を期待しているのかについて知の蓄積がある。したがって、当病院が中心となり、歯科以外の医療関係者からみた歯科医療安全に関する知見を成書とすることで、国内の病院内の医療安全管理に携わる医療従事者に対して、医科、歯科双方の観点からみた歯科インシデント事例の情報を供与することが可能となるのではないかと思われる。 現在病院内においては、病院職員は医療安全ポケットマニュアルを常時携行している。このポケットマニュアルを基盤として、現在実践されている歯科医療安全対策体系を歯科の視点から丁寧に解説することで、一般歯科開業歯科医においても、「安全文化」の醸成に参考となるのではないかと思われる。 また本書では、歯科で生じるインシデントを、病院内で勤務する医師、歯科医師、薬剤師、看護師、歯科衛生士、歯科技工士、臨床工学技士、理学療法士、その他の医療職や院内弁護士からの多職種からの視点も取り扱うことで、「医療行為のなかの歯科」という視点で捉え、病院内で発生したインシデントについて歯科医療従事者以外の者が読んでも、歯科で発生したインシデントの内容を理解できることを目指した。医科からの歯科インシデント事例に対するコメントは、歯科医療従事者にとっては新たな視点を与えられることがしばしばあり、病院内の医療安全管理部で働く医療従事者にとって信憑性があるため、歯科医療従事者以外であっても歯科事例の要因分析にあたり、本書は大いに役立つと考えられる。 加えて、最近急激にニーズが高まっている施設や居宅への訪問歯科診療についても、現場においてどのようなインシデントが発生しているのか、訪問診療に求められている基本的な感染対策等に関して別項目を設けて記述いただいた。訪問歯科診療を行っている歯科においても参考になるものと思われる。 本書が、歯科を有する病院の医療安全管理業務を行う医療関係者にとって有用な参考資料となり、また、多職種での連携医療が求められている開業歯科医院の医療安全活動を医療安全の観点から相互理解についてサポートし、歯科における「安全文化」の醸成に一歩でも貢献できることを願っている。

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