知っておきたい歯科における医療安全対策 大学病院での医科・歯科双方の視点から
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2025月7月岡山大学病院 病院長前田嘉信 わが国における医療安全管理は、私が岡山大学病院の医員として病棟勤務していた2000年(平成12年)前後に発生した複数の重大医療過誤事例を契機に本格化しました。1999年が医療安全元年、2001年が患者安全推進年と称されるように、21世紀に入って、医療安全へのアプローチも「個人の努力に頼った安全の確保」より「個々の要素の質を高めつつ、医療システム全体を安全性の高いものに改善する」ものに改変され、一定の成果を上げています。 行政主導で医療安全に関してさまざまな規定が作られましたが、程度の差はあれ、いくらかの施設において内部統制の不備や医療者の不作為は続いていました。このような経緯もあって、2015年に医療事故調査制度が施行され、2017年の第8次改正医療法では特定機能病院の管理および運営に関与する体制が強化され、全死亡症例の検討、高難度新規医療技術の導入時の審査、未承認適用外の医薬品・医療機器などの使用の審査などが整備されました。同年、臨床研究法と次世代医療基盤法が公布され、改正個人情報保護法が施行されました。 私が岡山大学病院血液・腫瘍内科の教授に就任したのはまさにこの年でしたが、その後も現在に至るまで、わが国の大学病院において厳格な自主的規律が求められ続けています。当然ながら、私たち医療者は高い倫理観をもって行動し、真摯に患者と向かい合い、安心・安全な医療を実施しなければなりません。2021年(令和3年)より私は病院長を務めていますが、当院の4つの基本方針のひとつに「安心・安全な医療」を掲げています。 岡山大学病院は、1870年(明治3年)の開設以来、150年を超える長い歴史と伝統を受け継いでいます。2003年に医学部附属病院と歯学部附属病院が統合され「岡山大学医学部・歯学部附属病院」となり、その4年後、医療法上の名称が「岡山大学病院」と改められました。このように、長きにわたり、医療系診療科と歯科系診療科が協働しながら、患者に最良の医療を届けられるよう尽力してきました。 当院では、2001年(平成13年)に医療安全管理部が設置されました。当初より、歯科医師が医療安全管理部の主要メンバーとして病院内の医療安全管理活動に参画していますので、医療安全管理においても、医療系と歯科系は綿密に連携協力してきました。このような背景のもと、今回、おそらく、日本初となる医科・歯科双方の観点からみた、医療安全・患者安全のテキストブックを刊行する運びとなりました。患者を中心とした医療の実践のためには、高度な医療技術だけでは不十分です。患者安全に対する深い理解と実践がすべての基礎になります。 本書が多くの医療現場で活用されることを、監修者の一人として心より願っています。刊行にあたって

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