新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う長期的なマスク着用を経て、子どもたちの「口呼吸」や「お口ポカン」といった問題が顕在化しました。これを機に、国民全体の「口腔機能」に対する関心は高まりつつあります。これまでおもに小児の矯正歯科の現場で実践されてきたMFT(口腔筋機能療法)は、いまや子どもたちの正しい発育を促すだけにとどまらず、全世代の「生涯にわたる健康」を支えるための不可欠なアプローチとして、その重要性を増しています。 「口腔機能発達不全症」と「口腔機能低下症」は、平成30年度の診療報酬改定で保険導入された新病名です。令和8年度(2026年)6月の診療報酬改定で、新たに独立した評価として「口腔機能実地指導料」が新設されました。私たちが日々向き合ってきた口腔機能へのアプローチが、全身の健康を育むための必要不可欠な医療であるという期待が高まっています。 保険導入後、現在はインターネットやSNS、Webセミナーを通じて、MFTに関する多種多様な情報や動画が溢れています。指導のハードルは下がったように思えるかもしれません。しかし、利便性が増した一方で、「その患者さんのためだけの的確な診断や評価」が置き去りにされたまま、表面的な形だけのエクササイズが横行しかねないという、新たな課題にも直面しています。知識や方法をもたないままマニュアルをなぞるだけでは、決して患者さんに有益な結果をもたらすことはできず、単なる「点数稼ぎの犠牲」にしてはならないという強い危機感を、私たちは抱いています。 MFTは誰にでも一律のエクササイズを行えばよいというものではありません。患者さん一人ひとりの状態に寄り添う個別化医療であり、歯科医師の的確な診断と評価のもと、「歯科医師・患者・MFT担当歯科衛生士」が、“三者一体”となって行うために本書が導き出した答えが「動画を見て、真似て、身につける」というコンセプトです。誌面と連動した動画を通じて、視覚的に学ぶこともできます。 本書はMFT学会が主催するベーシック研修セミナーの核心となる内容を中心に、臨床症例も供覧しながら、MFTに必要な解剖知識も加え、志を同じくする歯科医師5名、歯科衛生士4名の英知を結集して執筆いたしました。 本書が、明日の臨床現場に立つ皆様の確かな道標となり、多くの患者さんの健やかなお口の機能と未来を支える一助となることを、執筆者一同、心より願っております。2026年7月 坂本紗有見はじめに
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