脳の感情を司る部分がブロックされたような不思議な感覚のなか、私はまず、旅行を楽しみにしているスタッフ達に連絡をした。幸い、スタッフの自宅や家族の無事を確認できた。スタッフ達に事情を話し、「私は旅行に行けないが、皆は楽しんできてほしい」と伝えた。スタッフに別れを告げ、私はタクシーに飛び乗った。移動中、携帯電話に知り合いからの安否確認が続く。皆、私が被災地にいると思って連絡をくれるのだ。いつの間にか携帯電話の充電も切れ、タクシーのラジオニュースだけが情報源となった。停電や床上・床下浸水の情報、行方不明者の情報。ラジオニュースは何度も情報を発信し続けた。そのときだ。体が急に震えだした。感情のブロックが解除され、現実を脳が受け止め始めたのだ。「強制終了になったかもしれない」。突然、そう思った。今まで、すべてを注ぎ込んで育ててきたクリニックが、終了してしまうかもしれない……。つい先ほど空港で見送ったスタッフたちとも、もう一緒に働けないかもしれない……。思い出されるのは、感情のコントロールができず、ついついスタッフに当たってしまった自分。強権的にスタッフをコントロールしようとしていた自分。003
元のページ ../index.html#3