16 DHstyle 2025 AUTUMN 炭水化物なくして酸はなく、酸なくしてう蝕なし1890年Millerの化学細菌説 むし歯菌はラクトバチラス(乳酸桿菌:乳酸菌とも呼ばれる)図❶ カリオロジーの変遷 S. mutansとS. sobrinusがミュータンス連鎖球菌と一括された ミュータンス連鎖球菌*オロジー(ology)とは、科学や学問を表す接尾辞。たとえば、生物学はbiology、病理学はpathology、生理学はphysiologyである1970年代ミュータンス連鎖球菌原因説 プラーク構成細菌(ミュータンス連鎖球菌に限らない)と発酵性炭水化物(砂糖に限らない)がう蝕の原因と砂糖がう蝕の原因1994年Marsh の生態学的プラーク説 バイオフィルム・マトリックス(基質)の機能が注目され、プラークがバイオフィルムと呼ばれるようになる 細菌が産生する菌体外高分子物質は、バイオフィルム・マトリックスとして細菌を包み込み歯面に付着し、酸を内包する現在生態学的プラーク説の深化 カリオロジーはCariesとology*)が合わさってできた言葉で、「う蝕学」のことです。う蝕の原因と成り立ちと、予防・治療に関する学問です。どのような病気でも、その原因を取り除くことが病気の予防と治療です。ですから、う蝕の予防と治療のためには「なぜう蝕が起こるのか?」を理解し、病因を取り除くことが最も大事です。カリオロジーは最新でなければ役に立ちません。本稿であなたのカリオロジーをぜひアップデートしてください。1.むし歯菌(う蝕原性菌)と食べ物 21世紀になってカリオロジーは大きく変わりました。カリオロジーの歴史を振り返ってみましょう(図1)1)。1890年にMillerが唱えた人類史上初のカリオロジーでは、乳酸桿かんきん菌がむし歯菌であり、う蝕を引き起こす食べ物は炭水化物でした。1924年にStreptococcus mutansが発見され、1970年代からはミュータンス連鎖球菌(S. mutansとS. sobrinus)が砂糖(ショ糖)を食べて酸を出し、う蝕を変わりゆくう蝕学変わりゆくう蝕学天野敦雄大阪大学大学院歯学研究科 予測歯科創造共同研究講座 特任教授 歯科医師カリオロジーとはカリオロジーの変遷カリオロジーで読み解くう蝕予防
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