30巻頭特集 上顎前歯部と一部大臼歯のみが孤立して残存する広範囲欠損症例は、日常臨床において対応に苦慮しやすい病態の一つである。こうした進行性の歯列崩壊症例では、All-on-Xに代表される固定性補綴が理想的な選択肢となり得る一方、上顎洞底の解剖学的制約、手術侵襲、経済的負担が障壁となることも少なくない。 そこで重要となるのが、インプラントを支持・維持・把持の補助装置として戦略的に活用するIARPD(Implant-Assisted Remova-ble Partial Denture)という考え方である。本稿では、患者固有の価値観を尊重しつつ、将来的な追加埋入や固定性補綴への移行可能性まで視野に入れた、補綴主導型IARPD設計の要点を述べる。 患者は60代男性。主訴は、既存義歯の不安定による咀嚼障害と、笑った際に見えるクラスプに対する審美的不満であった。初診時には、デンタルX線写真10枚法、正面観、側方面観、上下顎咬合面観、ならびにX線検査を行い、口腔内および咬合の全体像を把握した。正面観・側方面観では、上顎臼歯部の広範な欠損と既存補綴装置の不調和が認められ、咬合支持は大きく破綻していた。 さらに上顎咬合面観では、前歯部2〜2と7のみが残存し、右側は全欠損を呈しており、支持・維持・把持のいずれの点からみても不利な上顎広範囲欠損症例であった(図1)。 なお、口腔内写真において下顎前歯部唇側歯肉に認められる腫脹は、患者への問診により、前医にて施行された軟組織移植術の痕跡であることが確認されている。 本症例では、患者が前歯部に強い愛着を有し、可能なかぎり侵襲の少ない介入を希望していた。このため治療計画立案にあたっては、 症例の背景 治療方針の設定片岡 智Satoru KATAOKA愛知県・片岡歯科医院将来の固定性補綴移行まで見据えた上顎広範囲欠損への対応
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