38巻頭特集 加速を続けるわが国の超高齢社会において、全身疾患を複数有する患者の割合は年々増加しており1,2)、今後、歯科医院を受診する機会もさらに増加することが予想される。 日本歯科麻酔学会事故対策委員会が行った、郡市区歯科医師会を対象とした「歯科治療に関連した全身的偶発症」のアンケート調査3)では、歯科治療に伴う全身偶発症の発症時期として局所麻酔時・直後が全体の半分以上を占めている。また、全身疾患を有する患者では、疼痛や薬物(局所麻酔薬、血管収縮薬など)などのストレスに対する予備力が健康成人と比較して小さくなっていることから、局所麻酔を契機に予期しない全身偶発症を発症する可能性が高いことが予想される。 これまで、国内で市販されている歯科用局所麻酔薬カートリッジ製剤は、2%リドカイン塩酸塩製剤、3%プロピトカイン塩酸塩製剤、3%メピバカイン塩酸塩製剤の3種類であった。しかし、2025年1月に4%アルチカイン塩酸塩製剤の市販が開始されたことで、新たな選択肢が増えた(表1)。 メピバカイン塩酸塩製剤以外の局所麻酔薬は局所での血管拡張作用を有しているため、局所麻酔薬の有効性確保を目的として血管収縮薬が含有されている。リドカイン塩酸塩製剤とアルチカイン塩酸塩製剤には、アドレナリン(アドレナリン酒石酸水素塩を含む)、プロピトカイン塩酸塩製剤にはフェリプレシンがそれぞれ含有されている(表1)。全身疾患への影響は局所麻酔薬そのものよりも、含有されている血管収縮による影響が問題となることが多い。 アドレナリンは、アドレナリン受容体のα受容体とβ受容体の両方に作用する。おもな作用として、α1およびα2受容体刺激による皮膚・粘膜の血管を収縮させる一方で、β1受容体刺激により心拍数と心収縮力を増加さ 血管収縮薬松浦信幸Nobuyuki MATSUURA東京歯科大学 歯科麻酔学講座歯科局所麻酔を行うにあたって知っておきたい全身疾患
元のページ ../index.html#9