デンタルダイヤモンド 2025年11月号
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32巻頭特集 患者が歯科を敬遠するおもな理由として、「治療が怖い、痛いから」が挙げられる。もう少し深掘りしてみると、痛みをとるための麻酔が怖い、痛い、さらには効果が不十分といったことが理由となっているようである。したがって、“怖くない、痛くない、よく効く麻酔”は、患者に喜ばれると同時に、不安や痛みに起因する全身的偶発症の予防に役立つ。 一方、術者にとっても麻酔に伴う偶発症は、治療に伴うトラブルのなかで最も起きてほしくないものの一つだろう。つまり、麻酔手技の巧拙は、患者の安全と術者の安心に大きく影響するのである。ところが「注射するだけ」の局所麻酔はあまりにシンプルすぎて、改めて学ぶ機会も少ないのではないだろうか。そこで本項では、「単純だが意外と奥深い」局所麻酔のポイントについて解説する。 キラッと光る注射針を目にしたとたん、身がすくむという経験は誰にでもあるだろう(かくいう筆者自身もその一人である)。不安や恐怖は疼痛閾値を下げ(痛みに敏感になる)、わずかな刺激に対して循環器が強く反応する状態となるため、患者をリラックスさせることは、安全な治療を行ううえで案外重要な要素である。 そのためにまずは、歯科医院の環境整備を心がける必要がある。埃の溜まった診療室で、スタッフと昨夜のテレビ番組について大声で話しながら現れた、染みだらけの白衣の術者を目の前にして、大切な口腔内を任せたいと考える患者は少ないだろう。最新の設備を備え、贅を尽くした内装にする必要はないが、清掃の行き届いた歯科医院と医療従事者にふさわしい態度は、患者の安心に繫がるのである。 そのうえで、とくに「注射が苦手」という 「単純だが意外と奥深い」局所麻酔 怖くない局所麻酔砂田勝久Katsuhisa SUNADA日本歯科大学生命歯学部 歯科麻酔学講座患者は安全・術者は安心、目指せ!“怖くない、痛くない、よく効く麻酔”

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