デンタルダイヤモンド 2025年11月号
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1.義歯製作における“デジタルの現在地”とは? 補綴装置の製作は、近年、劇的なデジタル化を遂げている。口腔内スキャナ(IOS)によって口腔内を直接スキャンし、CADソフトによって補綴装置を設計し、CAMによって加工物が機械的に製作されるプロセスは、もはや特別なものではなくなった。しかし、こと義歯製作に関しては、その恩恵が十分に活かされているとはいいがたい。 多くの現場では、従来のアナログ工程を単にデジタルに「置き換える」かたちで進められている。しかし、「印象採得→模型・咬合床製作→咬合採得→排列→試適→完成→装着」という工程のどこかを「スキャナ→CAD→CAM」に置き換えるだけでは、真の意味でのデジタル化とはいえないと筆者は考えている(図1)。そこには、長年積み上げられた“アナログドグマ”が根強く影響しているといえるだろう。2.「光学印象」は印象ではない─用語の誤解が生む限界 筆者は大学院時代、有床義歯補綴学講座に在籍し、補綴学用語の定義、選択、理論の整合性について徹底的に指導を受けたが、このことをいまも鮮明に覚えている。それだけにこの「印象」と呼んでしまっている言葉の使い方には違和感を覚える。 本来「印象」採得とは、補綴装置製作のための鋳型を採得する行為であり、口腔内スキャナによるそのもの自体の“写し取り”とはまったく異なる概念である。しかしながら、現場では「光学印象」という言葉が違和感なく使われ、「印象」と「スキャン」の本質的な違いが曖昧になっている。 このことは用語の問題に留まらず、製作プロセスに対する根本的な認識のズレを表しているように思う。図❶ 一般的に義歯製作において、診療室サイドでは「印象採得」「咬合採得」「試適」というアナログ的な既成概念が根強く定着している。この概念をそのままデジタル製作に置き換えようとすると、アナログからデジタルへ、デジタルからアナログへの繰り返しの操作になってしまい、余計に煩雑な作業になってしまう。デジタル化の利点はそこにはない “デジタル化”を再考する52

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