デンタルダイヤモンド 2025年8月号
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小児の口腔への早期治療62 近年、子どもたちの口腔に関する問題が増加している。開口、低位舌、口呼吸、咀嚼・嚥下機能の未熟さなど、かつては特殊とされていた症状が、現在では日常的に見受けられるようになった。 背景には、軟食傾向、姿勢の悪化、遊びや生活習慣の変化といった成長発育全般に影響する環境の変化がある。こうした変化は、単なる歯列不正や悪習癖に留まらず、子どもたちの健全な成長発育そのものに影響を与えている。口腔機能は摂食・咀嚼・発音・呼吸など生命と生活の基盤となる機能であり、その発達不全は、全身的な健康や学習・社会性の発達にも関与する。これを受けて、2018年には「口腔機能発達不全症」が保険病名として新設1)され、診療報酬上でも機能面の評価と対応2)が求められるようになった。 このような状況下において、かかりつけ歯科医に求められる役割は何であろうか。小児の定期管理を担う一般開業医は、最も早期に子どもの口腔に接する医療者であり、気になる兆候を見つけて対応する「第一発見者」としての責務がある。 定期健診や治療時に、咀嚼・嚥下の様子、会話中の口唇や舌の位置や動き、姿勢、成長・発育の状況などに注意を向けることで、機能的問題に早期に気づくことが可能である。実際、日常臨床において「何となく気になる」所見は多い。 つねに口が開いている「お口ポカン」、食事中にくちゃくちゃ音がする、話し方が不明瞭、顎の動きがぎこちないといった所見は、口腔機能発達不全症のシグナルである可能性が高い。これらを見逃さずに保護者にわかりやすく伝え、必要に応じて介入に繋げることが、かかりつけ歯科医の重要な役割である。そのためには、子どもの発育段階に応じた知識を整理3)し、口腔機能発達不全症に対する対応4, 5)に習熟する必要がある。 とくに小児の場合、機能的問題は歯列不正の原因となるだけではなく、成長発育によって増幅し、複雑化・難治化する傾向がある。逆にいえば、成長のタイミングを活かして早期にアプローチすれば、少ない介入で大きな効果を得ることが可能である。これは矯正歯科専門医による本格的な治療とは異なる、かかりつけ歯科医ならではの「口腔機能に対する積極的なアプローチ」である。 また、子どもたちは1日の約1/3を学校で過ごしている。つまり家庭と歯科医院だけではなく、学校生活のなかでも口腔機能を高められる。かかりつけ歯科医が、養護教諭や担任教師、学校歯科医との情報共有や連携ができれば、より包括的な支援が可能となる。口腔機能は本来、普段の生活のなかで育まれるものであり、地域・多職種との連携がその機能の獲得・維持・回復を支える鍵となる。 さらに早期からのかかわりのなかで、子ども自身が自らの身体や口腔に関心をもち、「自分の身体は自分で守る」という意識を芽生えさせることも重要である。歯科医療従事者による支援は、その自律性の形成を促すきっかけとなる。単なる受動的な治療対象としてではなく、子ども自らが健康づくりの主役となるように導いていくことが、かかりつけ歯科医にできる価値ある支援である。

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