図❶ 嚥下できずに口腔に残留した顆粒剤 錠剤嚥下障害の現状 病態56 嚥下機能が低下した高齢者のなかには、摂食もさることながら服薬に難渋するケースを散見する。本特集では、近年、注目されている錠剤嚥下障害(錠剤〔カプセル剤、顆粒剤なども含む〕が飲み込みにくい状況)について概説する。なお、薬剤が原因で起こる摂食嚥下障害は「薬剤性嚥下障害」と呼ばれており、両者を混同しないように注意を要する。 水と薬剤を同時に摂取すると、水だけが先に咽頭に移送されて薬剤が口腔や咽頭に残留することがある(図1)。患者自身が薬剤を飲み込めていないことに気づき、追加で水を摂取するなどして対応できれば大きな問題とはならないが、口腔感覚が低下している場合には、患者が口腔内に残る薬剤に気づかないことがある。さらに、内服時には一見するとしっかり飲み込めたように見えるため、周囲も薬剤を飲み込めていないことに気づかないケースがある。 厚生労働省の『高齢者の医薬品適正使用の指針』1)には、「処方の確認、見直しは医師・歯科医師・薬剤師が中心となる」と明記されている。そのうえで、生活の質(Quality of Life:QOL)の維持・向上を共通の目的として、多職種との連携の必要性が示されている。歯科衛生士の役割としては、「口腔機能や嚥下機能を確認し、薬剤を内服できるかどうか(剤形、服用方法)、また薬物有害事象としての嚥下機能等の確認」が求められている(表1)。 ドイツで一般開業医を対象に行われた調査では、18~80歳の受診患者1,051名のうち服薬困難を訴える者が37.4%認められた2)。また、米国の医療機関に来院した23~77歳の99名を対象とした調査では、約50%が錠剤を飲み込むことが困難だった経験があると報告されている3)。 日本国内の調査によれば、65歳以上の高齢者施設入所中の410名のうち、47.8%が服薬時に何らかの困難を経験していた4)。さらに、一般病院での調査では、服薬困難があると判断された高齢者223名中、28.7%が普通食を摂取していた5)。これらの報告から、薬剤を飲めないあるいは飲み込みにくい患者は、相当数いると推測される。 また、男性は喉頭位置の低下や舌機能の低下が女性より早い時期から起こるため、摂食嚥下障害は高齢の男性に多いといわれているが、錠剤嚥下障害は若年の女性に多いとの報告もみられる6)。その理由として、若年者のほうが服薬に慣れていないこと、一般に女性のほうが薬剤の嚥下に敏感であるといった心理的因子などが考えられている。 服薬は水分と薬剤という異なるテクスチャー(texture:質感)を同時に飲み込むという特殊な嚥下である。食物と薬剤は口から
元のページ ../index.html#11