a:MIPにおいて上下顎歯が嚙み込み状態から偏心運動を行った瞬間図⓱ デジタル咬合器を運用する場合、垂直分離をキャンセルする必要がある。垂直分離とは、上下顎咬合面が互いに交差している分だけ咬合器が開口してしまう現象である。図の赤丸部分は矢状断面を表示しているb:偏心運動初期に強制的に嚙み込みが解除される様子40 デジタル咬合器には、従来のアナログ咬合器の機能をコンピュータ上で再現するものと、患者の形態・顎運動データから、患者固有の顎運動や上下顎間関係をより正確に再現するもの(次世代デジタル咬合器)がある。ここまでは、前者について詳説した。従来型のアナログ咬合器のデジタルモデルを作成し、コンピュータ上で補綴物の設計を可能としているが、アナログ咬合器が生体を完全に再現できない問題点は未解決である。 咬合器の種類は多岐にわたるが、共通して再現できるのはMIPである。半調節性咬合器では、チェックバイトからMIPに加えて偏心咬合位を咬合器上で正確に再現できるが、偏心運動は直線で近似的にしか再現できない。また、フェイスボウトランスファーを行っても、生体の回転軸と咬合器の顆頭間軸が必ずしも一致しない。 だからといって、咬合器を用いた補綴物の製作が否定されるものではない。咬合器で製作した補綴物を術者が口腔内で調整することで、補綴物としての目的を達成できる場合がほとんどである。ただし、咬合器で再現できないものは観察や評価をできない。現状では観察できる一部の現象から全体を推察して診断しており、歯科医療従事者の経験と技術に頼る部分が大きい。 咀嚼時の顎関節の動態や動的な咬合接触関係など、従来では観察する手段すらなかった、見えないものを“観る・診る”を可能にすることが、次世代デジタル咬合器がこれから目指すべき方向性の一つであると思う。ここからは咬合器で何が再現できるのか、それを観察することで何がわかるのかを再確認する。さらに、咬合器に期待する機能を実現するために何が足りないのか考察し、次世代デジタル咬合器の可能性や目指すべき方向性について述べる。1.限界運動と咀嚼運動などの生理的運動との違い 教科書的には側方位における咬合接触は、咀嚼運動のなかで咬合力を発揮している部分と大きく関与しているとされている。実際には図18に示すように、側方滑走運動時に理想的な犬歯ガイドと臼歯離開が観察できる3)。 一方、同一患者の咀嚼運動時には、側方滑 咬合器は生体の動きを どのくらい再現していたのか?
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