デンタルダイヤモンド 2024年12月号
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35 カメラはメディカルニッコールのフラッシュ付きマクロレンズを使用していた。フィルム1個で36枚しか撮影できず、撮り終わった後は写真館へ現像に出し、数日後に確認していた。最初はピントや平面を合わせたり、ミラー越しに撮ったりするのも難しく感じ、カメラが重いため、しばらくはまともな写真が撮れなかった。デジタルカメラであれば撮影した写真をすぐに確認でき、うまく撮れていなければすぐに費用をかけず再撮影できるが、アナログカメラではそうはいかない。臨床の一瞬を切り取るのは一期一会と教えていただいた。 この経験のおかげで、1枚1枚誠心を込めてその瞬間を記録に残す大切さを知り、なるべく患者に負担をかけない撮影を心がけるようになった。 院長の手術中にカメラアシスタントを担当するのは、勤務医の仕事だった。しかし、デジタルカメラに移行後も、うまく撮れておらず再度撮影する必要が生じ、処置の流れを止めてしまうことがあった。申し訳なさを覚えるとともに院長のカミナリが落ちてくるため、当初は苦手意識をもっていた。 そのようななか、第5回日本国際歯科大会で夏堀先生が講演している姿を見て、意識が大きく変わった。講演中に出てくる写真はとてもきれいなうえ的確で、余計な物が写っていない。テクニックや仕上がりだけではなく、写真のクオリティでも人を魅了しているのだと気がついた。講演後に夏堀先生の元へ多くの先生が駆けつけ、賛辞を受けている姿を見て、自分もいつかあの舞台に立ちたいと決心した。 それからは手術中の撮影に対する苦手意識もなくなり、その日の手術内容や部位を事前に理解したうえで、カメラアシスタントに入るようになった。慣れてくると処置の途中で記録すべき写真もわかってきて、手術見学や臨床に対する興味がより深まった。 治療の精度をさらに高めたいと思い、夏堀先生に相談したところ、南 清和先生(大阪府開業)が講師を務める、明海大学のCEオーラルリハビリテーションコースを薦めてもらった。受講した際に症例を相談させていただくため、ノートPCを購入し、PowerPointで症例をまとめ始めた。 夏堀先生の下で勤めた最後の1年は、分院長を経験させていただいた。初診からの資料を採得して歯周外科治療を行い、補綴治療まで行った症例をまとめ(図2〜10)、初めて人前で発表した。自分の行った治療を多くの先生方に見てもらうのは、とても勇気のいることだった。 歯科医師にはラーニングカーブがあり、勉強や経験によって、手掛ける施術の難易度や精度は変化する。若いうちは木を見て森を見ておらず、診断が甘いなど、先輩に症例を見てもらうと必ず叱咤激励を受ける。そこでの気づきが次の成長のきっかけに繋がると思う。 一つの症例を初診から最終補綴までまとめる作業を行うと、新たな気づきを得ることがある。そして誰か見てもらうためには、資料が欠かせない。そのなかでも一際大事なのが、 勤務医時代の教え 症例発表を経ての変化

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