52巻頭特集 わが国は2007年に超高齢社会へ突入し、現在も高齢化は進行している。さらに、国内でも地方都市ほどそのスピードは加速していると報告されている1)。 筆者は秋田県で開業しているが、実際に開業当初よりも高齢者の歯科治療に従事することが増えた。超高齢社会ではさまざまな問題が露呈し始めており、われわれの関与する歯科領域では、歯牙欠損およびそれに付随する高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下が挙げられる。 臼歯欠損に対し、補綴治療による摂食嚥下能力の改善については広く報告されている2~4)。しかし本稿では、注視されることの少ない高齢者の前歯欠損とその治療について考察する。 高齢者の前歯欠損治療といっても原理原則は一般成人と変わらず、検査・診断を行った後に適切な治療方法を選択すべきだと考えている。自己の臨床を振り返っても、1.インプラント、2.ブリッジ、3.部分床義歯のなかから治療を選択することが多かった。1.インプラント(図1、2) 高齢者であっても、本人の希望と医療安全が担保されるのであれば、前歯欠損に対してインプラントはその第一選択肢であると考える。 ただし、考慮しなくてはならない点も挙げられる。まず、骨造成や軟組織移植を伴う大掛かりな外科処置のない、低侵襲な外科処置が望ましい。また、一次手術から二次手術、上部構造装着への治療期間も、高齢患者の視点に沿って考える必要がある。 一方、臨床では高齢者特有の医科既往・服用薬剤、さらに治療費不足などの理由から、インプラント治療を選択できない患者にもしばしば遭遇する。2.ブリッジ(図3、4) 隣在歯がすでに補綴治療を受けている、あるいは大きなう蝕が存在する場合は、コンベ 高齢者の前歯欠損治療柏木 了Ryo KASHIWAGI秋田県・柏木歯科高齢者における前歯欠損治療の臨床進化
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